ホテルを変えることにした。
下町のホテルに泊まり、毎日MGロード近辺までリクシャーで通っていたのでは、高くついてしようがない。
いっそ、MGロード近くのホテルに泊まった方が安くあがる。
通りへ出て、リクシャーをつかまえる。
「いいホテル、知らない?」
「いいホテル、知ってるよ。10ルピーで連れていってやる」
第一のホテルに着いた。部屋を見るが、気に入らない。
第二のホテルへ連れていかれる。こんなところに外国人が泊まると思っているのか。
第三のホテルへ連れていかれる。悪かないが、高すぎる。
第四のホテル...。第五のホテル...。第六のホテル...。
いくつまわったのか、わからなくなった。疲れて判断力が鈍るといけない。いったん、チャーチストリートへ戻り、日本食でも食べて一服しよう。
「チャーチストリートへ行って」
リクシャーは次のホテルへ行く。
「ここは知ってる。高すぎるの。チャーチストリートへ行って」
別のホテルへ連れていかれる。廃屋のようなホテルだ。
「チャーチストリートへ行って」
また次のホテルへ連れていかれる。
「チャーチストリートへ行って」
別のホテルだ。
リクシャードライバー(ドライバーAといしておこう)が
「ここも気に入らないのか。じゃ、これから土産物屋へ行こう」
「ノー」
私はリクシャーから飛び降りた。
ここからなら、チャーチストリートは近い。地理もわかる。
どんどん歩き出す。リクシャードライバーAが小走りに追いかけてくる。
「町中走りまわったんだ。金を払え」
「チャーチストリートへ行けと何度も言ったのに、あんたは行かなかった」
「これから行こう」
「もういい」
リクシャードライバーAは、それから数十メートルに渡って、私を追いかけた。が、とうとうあきらめて、リクシャーのところへ戻って行った。
その様子を見ていた他のリクシャードライバー(ドライバーBとしよう)が、私に
「チャーチストリートへ連れていってやろう」
と言う。
断る。
リクシャーでついてきながら、何度も
「乗れ。チャーチストリートまで行くんだろ」
5分も歩くと、チャーチストリートに着いた。
チャーチストリートの入り口に、やしの実売りがいた。やしの実を買い、穴を開けてもらって、ストローをさし、飲む。生き返る。
リクシャードライバーBが
「チャーチストリートへ連れていってやろう」
とまた、言ってくる。
「ここが、チャーチストリートだよ」
「ここは、チャーチストリートの入り口だ。チャーチストリートのどこへ行くんだ」
「私はここに住んでいるから、あんたに用はないよ」
「俺はここに50年住んでいる」
やしの実売りが面白そうに笑っている。
やしの実ジュースを飲み終わり、チャーチストリートを歩き出す。
リクシャードライバーBは、もう、追いかけてこない。
リクシャードライバーAには、悪かったろうか。何時間も町中走りまわったのに、私は1ルピーも払わなかった。
私にとって100ルピー払うくらいは、なんでもないことだけど、悪いクセをつけると、他の外国人旅行者が迷惑する。
インド人、特にリクシャードライバーは、アジア人の女一人旅と見ると、なめてかかる。自分のいいなりになると思っている。
本当にリクシャードライバーには苦労する。
日本人でも、男性旅行者なら、こんなに苦労しないんだろうなあ。
リクシャードライバーとの闘いは続く...。